〔承前〕埠頭本屋の窓口にて手続き後、18時を過ぎて苫小牧西港に停泊せる太平洋フェリー名古屋行へと乗船す。埠頭に繋がれし巨船之有。本航路に就役せる「いしかり」「きそ」「きたかみ」三杯のうち、今次配船は「いしかり」なり。名港金城埠頭へ黒鯛を釣りに出掛ける際、停泊中のみならず出船入船で馴染みのある船なれば、斯様な遠地で相見えるとは感慨深し。先に乗船せし砌は「きそ」なれど、また同様の感を抱きたり。それに絡め、本屋より長き乗船通路を歩きて思えらく、前回より既に二十星霜。この辺りに左程変化は見らざれば、記憶鮮明に残れども、逆に自身の加齢を知らしめられたり。果たして次の機会は有らざるや否やと。宛われし船室は、船首操舵室階下の畳敷き和室なり。本来3人乃至4人に供せられる部屋なれど、今回は我一人のみにて名古屋に至る。浴室も付属の特等船室にて贅沢の極みなり。とはいふものの、帰りの航空運賃と比肩なせば、同額或いは廉価にして泰平の贅に非ず。もっとも、列車を乗り通して次の南千歳で下車し、更に乗り換えて新千歳空港より名古屋への航空便に乗り込めば、僅か1時間半ほどにて帰着せり。こちらは苫小牧港より仙台港を経由し、名港へ辿り着くは明後日の10時30分にして、乗りたる時間は約40時間を要す。誠に阿房奇特の所業と言わざるを得ず。贅沢か否か容易に弁ずるを能わざるなり。船室にて落ち着きて後、食堂にて夕食。つい3時間ほど前に駅弁のかにめしを食したばかりなれば、些か早き夕餉に外ならず。さりとて20時には食堂が閉まる由。しかのみならず、船賃に食事代が含まれれば、食事を逸するは勿体無し。貧乏根性にて食指の動かぬまま夕餉を済ませり。19時解纜。食堂に在りて微かな揺れで出帆を識れり。久方振りの遠出にて疲労困憊。部屋に戻りて入浴後、早々に就寝す。